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「今和次郎 採集講義展」 パナソニック汐留ミュージアム
新橋
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新橋のパナソニック汐留ミュージアムでは、「今和次郎 採集講義展」が開かれています。
会期は3月25日(日)までです。

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今和次郎(1888-1973)は、建築家、デザイナー、民俗学研究家で、「考現学」の
創始者であり、その命名者でもあります。

青森県出身で、東京美術学校の図案課を卒業した後、早稲田大学建築学科の
助手となっています。
1920年には教授に就任しています。

1917年に佐藤功一教授の奨めで、柳田國男らの主催する「白茅会」に参加し、
日本各地の民家を調査しています。
各地方独特の民家を調査し、その過程で建築のみでなく、人びとの暮らしにも
目を向けています。

「雪に埋れる山の村の家(新潟県中頚城郡関川)」 1917年
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雪国の民家の特徴、工夫を記録しています。
美術学校出身の今和次郎はスケッチ類の作成も巧みです。

「恩賜郷倉」の資料、模型
建築家としての仕事です。
「恩賜郷倉」は昭和9年(1934年)の東北の大凶作をきっかけに、皇室からの下賜金と
国費で東北各地に建てられた、穀物の備蓄倉庫です。
今和次郎はこの建物の設計を行なっています。

「渡辺甚吉邸の椅子」 1934年頃
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岐阜県出身の実業家、渡辺甚吉は東京の自宅の建築設計を同郷の遠藤健三に
依頼しています。
遠藤健三はイギリスのチューダー様式による設計を行ない、早稲田大学時代の
師である今和次郎に内部装飾を依頼しています。
今和次郎は建物に合わせて家具、照明からナイフやフォークなどの食器まで
チューダー様式にまとめたデザインを行なっています。
この渡辺甚吉邸は白金台にあり、現在もウエディングハウスとして使われています。

今和次郎はおもに農家や農村を対象に調査をしていましたが、1923年の関東大震災と
その後の都市の復興を経験して、都市生活にも興味を向けます。
トタン板や廃材で作ったバラックなどをスケッチして回っています。

やがて都市風俗のさまざまを丹念に観察してスケッチや表にまとめ、発表もしています。
女性の髪形、通行人の職業別割合、新婚家庭の持ち物一切から、アリの歩いた
コースまで、種々雑多とも言えます。
「考現学」という言葉はこの過程で観察者仲間と話し合って決めたものです。
現在の「路上観察学」はこの「考現学」を元にして始まっています。

「銀座のカフェー服装採集」 今和次郎・吉田謙吉 1926年
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カフェーの女給さんの服装スケッチです。
ほとんどが和服にエプロン姿で、洋装はまだ僅かです。
地下鉄喫茶部、千疋屋フルーツパーラー、CAFE KIRIN、TIGER、カフェーライオン、
佐々木喫茶などの名が見えます。

「青森師範学校入学受験者の服装しらべ」 1930年
着物の柄を一人ずつスケッチしています。
ほとんどが絣の着物で、詰襟の学生服は1人か2人しかいません。

「新時代の生活方向 家庭の各員の生活マヂノ線を防備しませう 2.主人」 1940年
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ヨーロッパで1939年に第二次世界大戦が始まり、日本も戦時色の濃くなった頃の
啓蒙イラストです。
生活費の圧迫への対策をマジノ線にたとえて描いていて、交際費に対しては、
二次会絶対禁止などとあります。
紋切り型でない、ユーモアの感じられるイラストです。
マジノ線はドイツとの国境線沿いを中心にフランスの構築した長城式の要塞です。
実際のマジノ線は第二次世界大戦ではドイツ軍の戦車隊は要塞の構築されていない
ベルギーを迂回して侵攻したため、役に立たずに終わっています。

会場には豊富な資料が展示されていて、今和次郎の業績や人となりが伝わってきます。
とても多彩で、一括りには出来ない活動を行なった人ですが、基本には普通の人びとの
生活への関心と、その向上への意欲があったことが分かります。

今和次郎の「考現学」はとりとめもない情報の採集にも見えますが、今から見ると貴重な
生活風俗の資料になっています。
それは都市民俗学とも言えるものであり、柳田國男の民俗学とも根本では合致しています。


展覧会のHPです。

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【2012/02/05 01:13】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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