「国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展」 Bunkamura、ザ・ミュージアム
渋谷
chariot

渋谷のBunkamura、ザ・ミュージアムでは、「国立トレチャコフ美術館所蔵 
レーピン展」が開かれています。
会期は10月8日(月・祝)までです。

レ013


ロシアの写実画の巨匠、イリヤ・レーピン(1844-1930)の日本初の本格的
回顧展ということで、油彩画と素描、約80点が展示されています。

「自画像」 1887年
レ003


I 美術アカデミーと「ヴォルガの船曳き」
イリヤ・レーピンは1844年にロシアからの屯田兵の子として、ウクライナの
ハリコフ県に生まれています。
モネの生まれたのは1840年で、レーピンは印象派と同時代人です。
19歳で首都のサンクト・ペテルブルクに上り、美術アカデミーに学びます。
成績は優秀で、特に肖像画に熱心に取組んでいます。
生涯、人間を描き続けてきたレーピンの傾向はこの頃から現れています。

「浅瀬を渡る船曳き」(「ヴォルガの船曳き」の習作) 1872年
レ012

初期の代表作、「ヴォルガの船曳き」(1870-73)と同じ頃に制作された作品で、
構図が少し異なり、塊りとなった船曳きたちはこちらに向かって進んで来ます。
「ヴォルガの船曳き」に比べて印象の暗い作品になっています。

他にも、「ヴォルガの船曳き」のための小さな習作が何点か展示されています。
それにしても、レーピンといえば先ず思い浮かべる、「ヴォルガの船曳き」は
20歳台に描かれたのですから、その力量は驚くばかりです。


II パリ留学:西欧美術との出会い

レーピンは1872年に結婚し、73年に美術アカデミーの給費留学生として
家族とともにパリに赴きます。
傾倒したのはレンブラント、ベラスケス、フランス・ハルスで、
レンブラントは美術アカデミー時代から影響を受けています。
1874年の第1回印象派展も観ていて、マネや印象派にも衝撃を受け、
その技法を取り入れています。

「幼いヴェーラ・レーピナの肖像」 1874年
レ014

長女のヴェーラを描いています。
豪華な椅子、金髪、白い縞の服、そして幼子の可愛い表情を重厚に
そして華やかに描き出していて、その技量を示しています。
これとよく似た構図の、ルノワールの「すわるジョルジェット・
シャルパンティエ嬢」はこの2年後の1876年の作です。


III 故郷チュグーエフとモスクワ

留学から帰国したレーピンはウクライナの故郷に戻ります。
1877年にモスクワに移り、多くの作品を手がけます。
トレチャコフ美術館の創始者、パーヴェル・トレチャコフに初めて
会ったのもこの時です。

「夕べの宴」 1881年
大きな作品で、農村の夜の宴の様子です。
婚礼でしょうか、蝋燭の明かりの下で音楽に合わせて二人の若い男女が踊り、
お客たちは回りに座って見ています。
白いブラウスに首飾りを着けた女性は誇らしげな笑顔で、身を屈めて
コサックダンスを踊る男性は向こう向きに描かれ、躍動的で活力に
あふれた画面です。
この絵を描いているアトリエにトルストイが訪ねて来たのが、二人の最初の
出会いとのことで、トルストイはこの作品を高く評価しています。

「トルコのスルタンに手紙を書くザポロージャのコサック」(習作) 1880-1890年
レ010

ザポロージャ・コサックはウクライナのドニエプル川流域に存在していた
コサックの一団です。
トルコのスルタンから降伏して支配下に入るようにとの要求に対して、
返事を書いているところですが、彼らの哄笑している様子からその内容も
分かるというもので、自由を尊ぶコサックの気風を示しています。
遠景にはドニエプル川とそこで暮らす人びとの姿も見えます。
絵で見る彼らの習俗はロシア風というより、トルコ風に見えるのも
興味深いところです。
完成作はこの習作を元に、画面を左右に広げて描き足してあります。

「巡礼者たち」 1878年
杖を突き、荷物を抱えて歩く二人の貧しい巡礼の姿です。
レーピンの代表作、「クールスク県の十字架行進」(1880-1883)の中にも
そのまま描き込まれています。

「皇女ソフィア」 1879年
レ007

原題は「ノヴォデヴィチ修道院に幽閉されて1年後の皇女ソフィア・
アレクセエヴナ、1698年に銃兵隊が処刑され、彼女の使用人が
拷問されたとき」となっています。
ソフィアは初代ロシア皇帝ピョートル1世(大帝)の姉で、弟との権力闘争に敗れ、
修道院に閉じ込められています。
作品では、その9年後にソフィアを支持する銃兵隊が起こした反乱が鎮圧され、
修道院の窓の外に兵士が吊るされた場面を描いています。
怒りに燃えるソフィアは髪も乱れ、ものすごい形相で目を見開き、腕を組んで
テーブルに寄りかかっています。
テーブルクロスに寄っている皺や修道女のおびえた表情がソフィアの感情を
伝えています。
レンブラントを思わせる明と暗を強調した画面で、衣装や背景の表現も見事です。

「あぜ道にて―畝を歩くヴェーラ・レーピナと子どもたち」 1879年
レ015

妻と子供たちを描いていますが、モネの絵を観るようで、レーピンが印象派を
自分のものにしていることを示しています。
この作品も印象派の技法の習得のために描いたものだそうで、レーピン自身は
印象派の画家にはなっていません。

この作品は2009年に同じBunkamura、ザ・ミュージアムで開かれていた、
「国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア」にも出品されていました。

「作曲家モデスト・ムソルグスキーの肖像」 1881年
レ009

レーピンはすぐれた肖像画家として、多くの肖像画を描いています。
ピアノ組曲、「展覧会の絵」で有名な作曲家、ムソルグスキーが入院していた
陸軍病院を訪れて描いた作品です。
心臓を患い、アルコール依存症だったムソルグスキーの、ぼさぼさの髪、
目の隈、酒焼けした赤い鼻の容貌を克明に捉えています。
人物としての迫力も感じさせます。
ムソルグスキーはレーピンの訪れた約10日後に亡くなっており、
それを予期して描きに行ったのでしょう。

「休息―妻ヴェーラ・レーピナの肖像」 1882年
レ001

椅子にもたれてうたた寝をしている妻の姿です。
服の襟や袖の白が際立ち、量感の表現が見事です。
劇的な表現で有名なレーピンですが、このような
おだやかな情景の描写にもすぐれています。


IV 移動派の旗手として:サンクト・ペテルブルク

1882年にサンクト・ペテルブルクに移り、盛んに制作を続けます。
クラムスコイたちの始めた、民主主義的なリアリズム絵画を目指す
移動美術展覧会にも参加し、出展を続けています。

「思いがけなく」 1884-1888年
レ005

レ006


おそらく、刑期を早めに終えて流刑地から家に帰ってきたと思われる男を
迎える家族の情景です。
壁には爆弾で暗殺され棺に入れられたアレクサンドル2世の写真、磔にされる
キリストの絵の版画、ナロードニキ運動を支えた詩人の肖像がかかっていて、
男が政治犯であることを表しているとのことです。
くたびれた外套を着てこわばった表情の男は、腰を浮かせた老婦人と
向き合っています。
外に面したドアも開いている暖かい日に、男の着ている外套は流刑地からの
長い旅を思わせます。
男の子は嬉しそうな顔をしていますが、幼い女の子の方は、「この人誰?」
といったいぶかしげな目付きをしていて、男の不在の長さを示しています。
ドアに手をかけた召使も、災いがやって来たのを見るような冷たい表情を
浮かべています。
老婦人の表情は見えませんが、男を迎え入れようとしていることがその後姿で
分かります。
召使もいて居間にはピアノもある裕福な家の様子は、「大衆の中へ」を
スローガンにしたナロードニキ運動が都市のインテリゲンチャが起こした
ものであることを見せてもいます。
社会状況の中の一瞬を見事に描き出した作品です。

「文豪レフ・トルストイの肖像」 1887年
レ002

無地の背景に、簡素な服装の、宗教者のような威厳のある姿を描いています。
禅僧の肖像画である頂相(ちんぞう)を観るようです。
黒い服に白いひげ、本の白いページが映えています。

「ピアニスト、ゾフィー・メンターの肖像」 1887年
レ016
 
ゾフィー・メンターはサンクト・ペテルブルクで教授を勤めたこともある
高名なドイツのピアニストです。
レーピンはドイツを旅行中に彼女の自邸を訪れ、この作品を描いています。
女性らしい華やかさに満ちた色彩で、特にドレスの紫色が効いています。


V 次世代の導き手として:美術アカデミーのレーピン

レーピンは1894年から美術アカデミーの教鞭もとっています。
若い世代の生徒の中にはレーピンを時代遅れとする者もいたそうですが、
たしかにフランスではもうポスト印象派の時代です。
しかし、レーピンのリアリズムは圧倒的で、レーピン抜きではロシア絵画を
イメージ出来ないほどです。

シャガールやカンディンスキーが「ロシア出身の」画家とすれば、レーピンは
「ロシアの」画家と言えます。

「日向で―娘ナジェージダ・レーピナの肖像」 1900年
レ011

次女のナジェージダを逆光の中で印象派風に手際よく描き出しています。
レーピンは家族をモデルにする時は愛情のこもった描き方をしています。

私はむかし、画集でレーピンの作品を観たとき、「「ヴォルガの船曳き」や
「クールスク県の十字架行進」などのの構想の大きさ、表現の深さに驚き、
西欧の絵画とは違うロシア絵画に強い印象を受けました。
そのレーピンの作品を充分に鑑賞できる展覧会でした。

会場は作品の管理のため、かなり室温が低くなっているので、ご注意下さい。

展覧会のHPです。


Bunkamuraでの次回の展覧会は、「マンチェスター大学ウィットワース美術館所蔵 
巨匠たちの英国水彩画展」です。
会期は10月20日(土)~12月9日(日)です。

レ017


関連記事

【2012/08/09 00:05】 美術館・博物館 | トラックバック(1) | コメント(0) |
comment
 
コメントを書く
コメントは承認後に公開されます。ご了承ください。
please comment















管理者にだけ表示を許可する

trackback
trackback url ↓
http://nekoarena.blog31.fc2.com/tb.php/1539-f552ce41

blog_name=【弐代目・青い日記帳 】 ♥   「レーピン展」
 
Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の 「国立トレチャコフ美術館所蔵 レーピン展」に行って来ました。 Twitterで「レーピン展」を観て来た旨をツイートしたところ、海外在住の方から...
【2012/08/09 23:33】

プロフィール

chariot

Author:chariot
東京のビルの多い街で暮らしています。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

カテゴリー

ブログ内検索

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード


| ホーム |