「ジェームズ・アンソール―写実と幻想の系譜―」展 損保ジャパン東郷青児美術館
新宿
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新宿の損保ジャパン東郷青児美術館では「ジェームズ・アンソール
―写実と幻想の系譜―」展が開かれています。
会期は11月11日(日)までです。

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仮面や骸骨の登場する作品で有名なベルギーの画家、
ジェームズ・アンソール(1860-1949)の展覧会です。
アントワープ王立美術館の所蔵する、アンソールの作品約50点と、
同時代の画家の作品を展示しています。

「イーゼルに向かう自画像」 1890年頃
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ネクタイを着けたきちんとした服装の自画像です。
アンソールは、画家は職人やボヘミアンの仕事ではなく、ブルジョワのもの
という考えを持っていたそうで、友人の画家を描いたときも、スーツ姿で
イーゼルに向かう姿にしています。

ジェームズ・アンソールは北海に面した港町のオステンドで生まれています。
家は観光客相手の土産物店で、カーニバルの仮面や東洋の土産物を売って
いました。

1877年から1880年までブリュッセルの王立絵画アカデミーで学んだ他は、
生涯をオステンドで過ごしています。
アカデミーではフェルナン・クノップフと同級でした。
初期の作品は写実ですが、全体に暗くて重い感じがします。

「防波堤の女」 1880年
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小品で、パレットナイフで描かれているとのことです。
女性の後姿や、暗い色の防波堤には何か不安げなものがあり、ます。

「牡蠣を食べる女(または色彩の国にて)」 1882年
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縦207cmの大作で、それまでの作品とかなり違って色彩豊かです。
光を強調していて、並べられたビンやグラス、白いテーブルクロス、
赤い家具など、昼の光に照り映えています。
印象派の絵を観て勉強したのでしょうか、画面の大きさからみても
意気込んで描いたことが分かります。

ビデオの解説によると、この絵は当時極めて不評だったようで、
理由は女性が物を食べている様子は画題としてふさわしくない
ということだそうです。
パリでマネが、裸の女性のいるピクニック風景を描いた「草上の昼食」で
非難されたのは1863年です。
それに比べればはるかに大人しいこの作品が非難されたということですから、
ベルギーの画壇はかなり保守的だったと言えます。

アンソールは1883年にクノップフたちにより設立された、革新的な芸術を
目指す団体、「二十人会」に参加します。
自分の作品が理解されないので、新しい拠り所を求めたのでしょう。
作品には仮面が登場し、画面も写実から離れて行きます。
しかし、ここでも彼は理解されず、1889年には会を追放されそうになっています。

「陰謀」 1890年 
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グロテスクな仮面劇の光景で、山高帽の男が主人公のようです。
着飾った女が勝ち誇った顔で男の腕を掴み、人形を持った女は歯をむき出して
男に何か訴えています。
この子の父親はあなたです、と言っているようにも見えます。
アンソールの家では土産物として仮面も売っていたので、仮面はなじみのある
モチーフだったようです。
仮面は人の顔を隠す一方で、人の内面を表に出したりもするので、
人の敵意に晒されている状況を表現するのにふさわしかったのでしょう。
色彩は明るいのですが、けばけばしく毒気があり、以前の写実的な色彩とは
まるで違います。
ただ、色の派手な分、おどろおどろしい場面もそらぞらしい喜劇に見えてきます。

「首吊り死体を奪い合う骸骨たち」 1891年
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札にCIVET(肉の煮込み)と書かれた男の死体を前に、女の骸骨が
モップと箒で戦っています。
両側のドアからは、肉にありつこうというのか、仮面たちがナイフを
持って待ち構えています。
一つの解釈として、男はアンソール、二人の骸骨は母とおば、
間で倒れているのは祖母、左下は父とされています。
アンソールの父は事業に失敗して酒に溺れて死に、実家の土産物屋は
家族の争いが絶えなかったそうです。
家事の道具であるモップや箒で戦っていることから見て、この解釈は
合っているのかもしれません。
ともかく、周囲の自分に対する敵意を絵にしていることは分かります。
骸骨は中世の絵画に「死の舞踏(メメント・モリ)」としてよく登場する
モチーフで、アンソールにとっても馴染み深かったと思われます。

「花と野菜」 1896年
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明るい色彩ですが、花はしおれ、何かざわざわとした雰囲気があります。

「絵を描く骸骨」 1896年頃
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1898年に撮られた写真を元にしていると思われる作品で、アンソールは
やはりきちんとスーツを着ています。
アンソールは実際の制作年とは違う年を言うことがあるらしいので、
この絵も1898年以降のものかもしれません。
顔が骸骨になってあり、骸骨の画家として知られるようになった
「ジェームズ・アンソール」をなぞっているようにも見えます。
色彩もおだやかで、毒気がありません。

なかなか理解してもらえなかったアンソールですが、徐々に評価も高まり、
1923年にはベルギーの絵画アカデミーの会員になり、1929年には男爵も
授けられています。
しかし、現在高い評価を受けているのは不遇時代の作品で、認められる
ようになってからの作品は精彩を欠いているとされています。
社会的な地位が安定すると筆の鋭さがにぶってしまうというパターンの
ようです。

展覧会ではアンソールに影響を与えたと思われるフランドル絵画の作品も
展示されています。

ピーテル・ブリューゲル(子) 「七つの善行」 1616年以前
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「雪中の狩人」や「農民の踊り」で有名なピーテル・ブリューゲルの長男で、
父とよく似た絵を描いています。
アンソールもブリューゲルの描く人間模様の世界に関心を持っていた
ことでしょう。


展覧会では、特異な画家であるジェームズ・アンソールとヨーロッパ美術の
伝統や近代美術との関係について、ていねいな解説もされています。

展覧会のHPです。

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【2012/09/12 00:12】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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