「貴婦人と一角獣展」 国立新美術館
乃木坂
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六本木の国立新美術館では「貴婦人と一角獣展」が開かれています。
会期は7月15日(月・祝)まで、火曜日が休館日です。

貴001


パリのフランス国立クリュニー中世美術館の所蔵する、「貴婦人と一角獣」と
いう名の6枚のタピスリーを中心にした展示です。

フランス国外では1974年にニューヨークのメトロポリタン美術館に展示された
ことが一度あるだけということで、しかも6枚全部揃って観ることの出来る
今度の展覧会はとても貴重な機会です。

タピスリーは1500年頃の制作で、下絵の作者は、「アンヌ・ド・ブルターニュの
いとも小さな時祷書の画家」と推測されています。
制作地はタピスリーの生産が盛んだったフランドルのブリュッセル辺り、
あるいはパリとのことです。
ルイ12世のフランス軍がイタリアに侵攻し、レオナルド・ダ・ヴィンチがミラノを
逐われたのは1499年です。

注文主は旗や盾の三日月の紋様から、ル・ヴィスト家の当主、アントワーヌ2世では
ないかとされています。
ル・ヴィスト家の出自はリヨンの紡毛織物業者で、パリの司法官などを努めています。

タピスリーは照明を落とした天井の高い広い展示室を囲んで掲げられています。

テーマは五感を表しているものらしく、触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚の5枚と、
主題が不明の「我が唯一の望み」で構成されています。

真紅の地にさまざまな植物を散らした千花模様(ミルフルール)の中に4種類の木、
動物たち、そして貴婦人と侍女、獅子、一角獣(ユニコーン)が織り上げられています。

貴婦人はどれもイタリアから広まったダマスク織りの絹織物を着ています。
織り柄はオリエント起源のザクロ実文様で、多産、豊穣を意味しています。

「触覚」
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貴婦人が右手に騎士の槍を持ち、左手で一角獣の角に触っています。
獅子の顔付きも他の作品とは違うので、他に先行して制作されていた可能性が
あるそうです。
たしかに目が大きく、人間のような顔をしています。
一角獣は本来獰猛な動物ですが、乙女には従順とされています。
猿がローラーにつながった首輪の鎖に触っていて、触角のアレゴリー(寓意)を
表しています。
他にも、鳥や兎、珍しい動物だったチーターや豹もいます。

「味覚」
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「我が唯一の望み」と並んで、一番大きな作品です。
侍女の捧げ持つお盆から菓子を摘まんで、手袋をした左手に停まらせた小鳥に
与えようとしています。
下の方では猿が何か食べようとしています。
この場面にはバラの生垣もあります。
樹木は右上が松、右下がフユナラ、左上がオレンジ、左下がセイヨウヒイラギです。
千花模様の草花はオダマキ、ヒヤシンス、ミント、ヒメハギ、スズラン、ヒナギク、
キンセンカ、パンジー、ニオイアラセイトウ、マーガレット、ジャスミン、ナデシコ、
ソラマメ、エンドウなど、6枚で40種類ほどあるそうで、画面をとても華やかに
しています。

「嗅覚」
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侍女の持つ皿から花を選んで、ナデシコの花冠を編んでいます。
猿はバラの匂いを嗅いでいます。
獅子の持つ盾に描かれた三日月は他と違って下向きになっています。
下図を間違えたのでしょう。
紋章学では、原色(青・赤・黒・緑・紫)と金属色(金あるいは黄、銀あるいは白)の
2つのカテゴリーがあって、同じカテゴリーの色を並べることは違反になるそうです。
ル・ヴィスト家の紋章は青と赤が並んでいて違反しており、当主家の紋章としては
珍しいそうです。
新興階級出身であることに原因があるのでしょうか。

「聴覚」
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貴婦人は卓上のパイプオルガンを弾き、侍女がふいごを動かしています。
この場面だけは獅子と一角獣は外に向かって座り、音楽を聴くために
振り返っています。
獅子(Lion)はル・ヴィスト家の出身地のリヨン(Lyon)に通じ、一角獣は
足が速いことから「速い」を意味する古フランス語の(Viste)がヴィスト
(Viste)に結び付いているのではないかということです。

一角獣は紀元前400年頃のギリシャの歴史家の記述に、一本角の野生のロバとして
現れたのが最初ということです。
ヘブライ語の旧約聖書をギリシャ語に訳す時に、「雄牛」を意味する言葉として、
この「monokeros」が使われます。
ヒエロニムスがラテン語に訳した時も、幾つかの箇所に「一角獣」の語が
宛てられています。

獅子と一角獣の組合わせはイギリスの国章にも使われています。
獅子はイングランド、一角獣はスコットランドの象徴です。

(参考:一番町のイギリス大使館)
国章

「視覚」
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貴婦人は座って鏡を持ち、一角獣は前脚を貴婦人の膝に乗せて嬉しそうに
自分の顔を映しています。
鏡に映る自分の姿を自分と認識出来るのはチンパンジーやオランウータン、
イルカ、ゾウなどに限られるそうなので、一角獣の知能はかなり高いようです。
貴婦人の表情は他のとは少し違って、目が重そうです。
画面の中には6枚の中では一番多い11羽の兎がいます。
数えてみると、6枚全部では40羽いて、動物の中では一番多い数です。
兎は多産の象徴でもあり、このタピスリーの織られた動機に関係があるのでは
ないかということです。

「我が唯一の望み」
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この作品が何を表現しているのかは謎だそうです。
貴婦人は侍女の持つ宝石箱から宝石を取り出そうとしているのか、あるいは
箱に戻そうとしています。

ここにだけは深い青色の天幕があり、帯に「mon seul désir」(我が唯一の望み)と
書かれています。
この言葉が何を意味するのかは不明とのことです。
帯の左端に「A」、右端に「I」の字があるので、これはアントワーヌ2世と
最初の妻のジャクリーヌを表し、タピスリーは二人の結婚を記念して
制作されたのではないかとされています。
昔のラテン語では「J」の代わりに「I」が、「U」の代わりに「V」が使われて
いました。

腰掛にはクッションが置かれ、その上に犬が座っています。
犬は忠実、貞節の寓意なので、結婚という主題に関係しているのかもすれません。

腰掛の木目や陰翳まで表現され、このタピスリーが対象の立体感まで表している
ことが分かります。

会場では大画面のデジタル映像も放映されていて、作品の細部まで鑑賞することが
出来ます。
タピスリーはとても大きいので、会場が混雑しても良く観ることが出来ると
思います。

会場に立って、光に浮かび上がる6枚の真紅のタピスリーの繰り広げる桃源郷に似た
景色を観ていると、別世界に誘われるような気持ちになります。





国立新美術館では8月7日(水)から10月21日(月)まで、「アメリカン・
ポップ・アート展」が開かれます。

アメ001

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