日本美術院再興100年特別展、「世紀の日本画展」 後期 東京都美術館
上野
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上野の東京都美術館で開かれている、日本美術院再興100年特別展、
「世紀の日本画展」の後期・特別観覧会が3月1日の夜にありましたので
行ってきました。 

院001


後期の会期は3月1日(土)から4月1日(火)までです。
院展の出展作を中心にした展示のため、どの作品も大きく、そのため前期と後期で
すべての作品が入れ替わります。

河合晴生学芸員の解説を伺ってから作品を鑑賞しました。

狩野芳崖 「悲母観音」 明治21年(1888) 
東京藝術大学 重要文化財

院014

狩野派の技法による仏画の形式で描かれていて、観音菩薩は中空で
水瓶を傾け、その下でこの世に生を享ける童子が観音を見上げています。
狩野芳崖(1828-1888)の絶筆で、未完の部分は盟友の橋本雅邦が
仕上げています。
仏画を超えた物語を持っていて、西洋の聖母子像の影響があるのかも
知れないとのことです。
背景に淡い色彩を加えて西洋の空間表現を取り入れた、近代日本画の
始まりとされる作品です。

橋本雅邦 「龍虎図屏風」 明治28年(1895) 
 東京・静嘉堂文庫美術館 重要文化財

院017

左隻
院018

右隻
院019

二匹の龍が雲を起こし、波は勢い良く逆立ち、岸では虎が竹を揺する
風の中で待ち構えています。
伝統的な龍虎図に拠っていますが、西洋画を意識して空間に立体感があります。
蒔絵のような艶のある色彩で、龍が相手ですから虎の姿形は写実的では
ありませんが、毛皮は写実的に描かれています。

橋本雅邦(1835-1908)は東京美術学校の絵画科主任を勤め、菱田春草、
横山大観、下村観山、河合玉堂らを育てています。
その後、日本美術院の創立にも参加しています。

今村紫紅 「熱国之巻(熱国之夕)」(部分) 大正3年(1914) 
 東京国立博物館 重要文化財

院006

院007

前期には 「熱国之巻(熱国之朝)」が展示されていました。
タヒチに行ったゴーギャンに倣って、貨物船に乗りインドに向かい、バンコク、
シンガポール、ラングーンなどを経由してカルカッタに着いています。
作品はこの時見た光景を元にして描いた絵巻物で、今村紫紅の代表作です。
黄土を塗った明るい画面に金砂子を散らして明るい南国の光を表し、点描を用いて
童話のような異国の風物を描いています。

前田青邨 「芥子図屏風」 昭和5年(1930) 岐阜・光ミュージアム
院008

左隻
院009

右隻
院010

歴史画を得意とした前田青邨ですが、力強い画風による草花の絵を描いています。
屏風絵にふさわしい装飾的な作品で、前田青邨の持つモダンな感覚が表れています。

小林古径 「孔雀」 昭和9年(1934) 東京・永青文庫
細4-25-2010_008

大きく羽根を広げた孔雀の姿を画面いっぱいに描いています。
緑青の鮮やかさを存分に引き出し、丸い模様の金泥も華やかです。
装飾的でありながら端正な、小林古径ならではの画風です。

奥村土牛 「門」 昭和42年(1967) 東京・山種美術館
姫路城の城門を描いた作品で、80歳に近い高齢で夏の炎天下に何時間も掛けて
スケッチしたとのことです。
奥村土牛の特徴の一つの、形の強調が表れています。
大きく開かれた門扉、門の向こうの視界をふさぐ白壁、その壁に一つ開いている
鉄砲狭間と白壁の屋根の上の空間と、四角い図形が奥へと並び、絵に奥行を
見せています。
城の持つ物語性や情緒に頼らず、あくまで面の作る空間構成にこだわっています。

小倉遊亀 「コーちゃんの休日」 
 昭和35年(1960) 東京都現代美術館

院020

交流のあった越路吹雪をモデルにした作品で、色彩が明快で描線に勢いがあり、
量感も表されています。
マティスを研究していた頃で、従来の日本画には無い、思い切った力強さのある
モダンな作品です。
越路吹雪は絵を見て、夫に「自分の手や足の悪い癖がしっかり描かれている」と
言ったそうです。

前田青邨 「知盛幻生」 昭和46年(1971)
兄の源頼朝に追われた源義経一行が摂津の大物浦から船出したところ、
嵐に遭って散り散りになってしまった事件を題材にした、能の「船弁慶」に
拠っています。
壇ノ浦に沈んだ平知盛達の亡霊が千切れた鎧を着け、長刀を手にして
暗い波間から浮かび上がっています。
たらし込みで塗られた深い藍色の波は平家の怨念を表すように不気味です。
この作品は、波に翻弄される義経主従の船を描いた、「大物浦」と
対になっています。
歴史画の大家である前田青邨の傑作です。

参考
前田青邨 「大物浦」 昭和43年(1968)
歴002


塩出英雄 「五浦」 昭和45年(1970) 茨城大学
五011

岡倉天心は明治38年(1905)年に茨城県の五浦に別荘を建て、翌年には
日本美術院も五浦に移しています。
天心に従って横山大観、下村観山、菱田春草、木村武山もここに移住します。
作品には洛中洛外図のように名札も付いています。
天心の家は「天心邸」ですが、弟子たちは「大観宅」「春草宅」です。

右下に天心が設計した六角堂が見えます。
六角堂は東日本大震災の津波で流されてしまいましたが、その後再建されています。
五浦の地は院展の画家たちの精神の拠り所になっているようです。

森田曠平 「京へ」 昭和48年(1973) 京都国立近代美術館
頭に柴の束を載せた大原女たちが京への道を歩いているところです。
京都出身の森田曠平は、望郷の思いからか大原女を描こうと思い立ち、
実際の大原女を写生してみると、想像していたのとは違って首は太く、
お尻はどっしりとした、たくましい女性労働者だったそうです。
描かれた大原女たちも表情は力強く、足取りもしっかりと堅固です。

岩橋英遠 「道産子追憶之巻」 
昭和53-57年 北海道立近代美術館(1978-82)

長さ29mという、絵巻のような長大な作品で、展示室の壁2面を使って
展示されています。
冬の夜の冬眠する熊の親子に始まり、春の始まりは朝日の当たる白樺林、
コブシ・林檎・桜が咲き、カラマツに新芽が吹いて草原は夏の昼になり、
赤トンボが群れをなして秋の夕方に写ります。
最後はまた冬に戻って、ストーブの周りの家族、雪原で訓練を行なう
屯田兵で終わります。
岩橋英遠(1903-1999)は屯田兵の子として北海道で生まれ育っています。

手塚雄二 「市民」 平成3年(1991) 
 富山・黒部峡谷セレネ美術館

国立西洋美術館の前庭に置かれている、ロダンの「カレーの市民」を描いています。
鈍く重い色彩で市民たちの像は浮き上がり、彼らの苦悩がひしひしと伝わります。
思い屈するところがあって、西洋美術館の前を歩いていた手塚さんは雨に打たれた
この像を見たとき、何か心に感じるものがあり、作品にしたそうです。


日本美術院の画家の作品を通して、明治以降現在の日本画の流れを
もう一度確認できる、とても見応えのある印象深い展覧会です。

「世紀の日本画展」(前期)の記事です。

展覧会のHPです。


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【2014/03/06 21:47】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(4) |
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  • こんばんは。
  • 田渕さんは現在の院展を代表する画家の一人なので、両方の展覧会に展示されているのですね。
    線描が鮮やかで、色彩を減らして印象深い画面にする力量はさすがです。
    日本画の一つの形を示していると思います。
    今度は秋の院展が楽しみです。

    【2014/03/30 23:57】 url[chariot #/8nqih4Y] [ 編集]
  • 世紀の日本画と春の院展
  • 都美のチケットを貰ったのでもう一度世紀の日本画展と再度春の院展に行ってきました。
    世紀の日本画展に出品されている田淵俊夫さんの絵と院展の絵は、タイトルも同じ『流転』一方はすすきで今回は朝顔。30年を経ても
    田淵さんの絵のテーマ『命の営み』は変らないのだなと敬服しました。
    同じ日に両方の展覧会を見た事で、同じ作家の絵を見比べる事が出来てとても面白かったです。

    【2014/03/30 22:39】 url[マサちゃん #-] [ 編集]
  • こんばんは。
  • 美術の教科書でなじみ深い、芳崖の「悲母観音」や大観の「無我」なども展示されていて、後期も見応えがあります。
    「熱国之巻」は象が可愛く描かれていて、なかなか面白い絵だと思います。
    現役の画家の作品も展示されていて、100年の歴史を存分に味わえる展覧会です。

    【2014/03/08 23:44】 url[chariot #/8nqih4Y] [ 編集]
  • 前期だけでなく後期も行きたいですね
  • 世紀の日本画展後期もいいですね。日本美術院再興の功労者の大観の子供の絵もありますし。1か月前に前期に行って熱国之巻に興味が湧きましたので、後期の夕の方も見たくなりました。なじみのある、なし共100年の歴史を噛みしめて鑑賞できるのがこの企画の魅力ですので、早く行きたいと思います。

    【2014/03/08 23:01】 url[あかーる #X037UcDo] [ 編集]
    please comment















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