中国行きのスロウ・ボート
村上春樹
chariot

「中国行きのスロウ・ボート」は1980年に書かれた、村上春樹の最初の短編です。

私が村上春樹を読んだのもこの作品が初めてでした。
安西水丸のすっきりしたイラストの文庫本を何気なく手にとって読み出して、
すぐに圧倒されました。

今までの作家とまるで違う、からっと吹っ切れた文体、透き通った虚無感、
まったく新しい世界です。
私と同世代なのに、このような文章を書くのか。
生まれて初めて海を見たような気持でした。

それから彼の作品をいくつか読むようになりました。


今度、久しぶりに読んでみようと思って、図書館で新潮社の
「象の消滅 短編選集1980−1991」を借りて読み始めました。

あれ?無い。中国人小学校の章の終わりの部分が無くなっている。
何度読み直しても、他の箇所を捜しても、無い。消されちゃった。
印象に残る箇所だったのに、どうしてだろう。

図書館に行って、昔読んだのと同じ中公文庫を借りてきて読み比べてみました。
確かに2ページ分ほどが削られていて、代わりに1行書き足されています。

「象の消滅」には選集の前書が載っていて、その中で
「中国行きのスロウ・ボート」について、最初の短編なので気に入らない所も多く、
2回書き直したので、ヴァージョンが三つある、と書いています。

しかし、何故あの印象深い部分を削ったのでしょう。
それに、書き足した1行は唐突で、あまりに簡単に片付けているように思えます。
私にしても最初に出会った作品ですから、思い入れがあります。

「中国行きのスロウ・ボート」をまだ読んでない方は、
まずオリジナルヴァージョンを読むことをおすすめします。
その後で現在のヴァージョンを読むと面白いでしょう。

それにしても、終りの段はこの後も長く書き続けていく村上春樹の
高らかな決意を聞く思いがします。
作者はその処女作に向かって書き続けるともいいます。


私は忠実な読者としての誇りをスターバックスの紙袋に詰め、
図書館の石段に腰を下ろし、空白の水平線上に現れる、
昔乗ったスロウ・ボートを待とう。

友よ、
まだ見ぬ友よ、中国はそんなに遠いのか。





【2008/02/29 23:41】 文学 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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