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私の「ユトリロ展」
ユトリロ
chariot

展覧会で観た、ユトリロの作品を集めて、私の「ユトリロ展」を開いてみました。
私が十代の頃、初めて観た美術展がユトリロ展なので、思い出深い画家
でもあります。

モーリス・ユトリロ(1883-1955)は画家のシュザンヌ・ヴァラドン(1865-1938)の子で、
パリの風景を抒情的に描いています。
シュザンヌ・ヴァラドンはパリでシャヴァンヌやルノワール、ドガ、ロートレックなどの絵の
モデルもしていました。

シュザンヌ・ヴァラドン 「モーリス・ユトリロの肖像」 1921年 ユトリロ‐ヴァラドン美術館
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ユトリロを産んだ時、すでに画家として忙しかったヴァラドンはユトリロの世話を
自分の母親に任せます。
その母親の影響もあってユトリロは早くから酒を飲むようになり、10代でアルコール
依存症になっています。
絵を描くようになったのは、依存症から脱するための作業療法としてだったので、
職業画家になるつもりは無かったようです。

「モンマニーの石切場」 1907年頃
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「モンマニーの3本の通り(ヴァル=ドワーズ県)」 1908年頃 八木コレクション
ユトリロ006

モンマニーはパリの北にあり、義父のポール・ムジスの建てた家のあった所です。
ユトリロの作品は初期のモンマニーにいた時、パリでの白の時代、
有名になってからの色彩の時代に分けられます。
モンマニー時代の作品はどれもかなりの厚塗りです。
すでに建物が描かれていますが、まだ風景の一部です。

「モンマルトルのサン=ピエール広場から眺めたパリ」 1908年頃 八木コレクション
ユトリロ007

ユトリロはパリのモンマルトルの生まれなので、生涯、愛着を持ってモンマルトルの
景色を描いています。

「サン=ピエール教会とサクレ=クール寺院、モンマルトル」 1910年頃 個人蔵
ユトリロ018

ユトリロを特徴付ける、「白の時代」が始まっています。
この頃になると、ユトリロの絵にも買い手が付くようになります。

『「小さな聖体拝受者」、トルシー=アン=ヴァロワの教会(エヌ県)』 
 1912年頃 八木コレクション

ユトリロ002

教会の白壁が灰青色の空に半ば溶け込んで、しみじみとした景色になっています。
googleのストリートビューで見ると、この教会は現在は玄関部分や塀を失っていますが、
ほぼ同じ姿で残っているようです。
ユトリロは絵葉書を見て描くことも多かったので、パリ以外の景色もよく描いています。

「ノルヴァン通り、モンマルトル」 1912-14年 個人蔵
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サクレ=クール寺院に続く小路で、現在は賑やかな商店街になっているようです。
通りの奥にサクレ=クール寺院が見えます。

「サン=ピエール教会」 1914年 パリ、オランジュリー美術館
ギヨームimg130 (5)

モンマルトルのサン=ピエール教会を寂寥感を込めて描いています。
ユトリロの葬儀もサン=ピエール教会で行われています。

「ラパン・アジル、モンマルトル」 1914年
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サクレ=クール寺院の北側の、狭い坂道の脇にある酒場のラパン・アジルは、
ピカソやブラックが集ったということで、ユトリロの作品によく描かれています。
隣のサン・ヴァンサン墓地にはユトリロの墓もあります。
NHKの「ブラタモリ」のパリ編でも、タモリさんたちはこの辺りを歩いていました。

「サン=ローラン教会、ロッシュ(アンドル=エ=ロワール県)」 1914年頃
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ユトリロは教会建築をよく描いています。
風景としての街並みを描く時とは違って、独立した建築物として描いています。
カトリックへの信仰心を持っていたものの、母親のシュザンヌ・ヴァラドンは
無神論者で、なかなか洗礼を許さなかったそうです。

「ポントワーズのノートル=ダム教会」 1914年頃 スイス、ヴィンタートゥール美術館
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空を広く取った画面で、灰色の空、くすんだ白壁にしみじみとした情感があります。

「コルト通り、モンマルトル」 1916-18年 個人蔵
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サクレ=クール寺院に向かう上り坂で、寺院の尖塔が見えます。

「モンマルトルのキャバレー・ラパン・アジル」 1916-18年 個人蔵
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現在も、立ち木もそのまま残っています。

「モンマルトル風景」 1917年
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白の時代から色彩の時代に変わる頃の作品です。
モンマルトルの丘のサクレ=クール寺院を遠くに見上げ、階段の部分も
ていねいに描き込んでいます。
サクレ=クール寺院や空は白の時代風ですが、町並みの色合いが
明るくなっています。

「カルボネルの家、トゥルネル河岸」 1920年頃
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作品が売れ出し、それと共に作風が明るくなって、色彩の時代に入ります。
色彩が華やかな分、白の時代の沈んだ色調の中の叙情性は消えていきます。
定規で引いたような線が目立ち、透視図法のお手本のような絵が多くなります。
トゥルネル河岸はシテ島の南のセーヌ川沿いにある通りで、この建物は
現在も残っており、左に少し行くと鴨料理で有名なトゥールダルジャンがあります。

絵が売れたので本人は幸福になったのかというと、そうではなかったようです。
シュザンヌと、ユトリロより年下でシュザンヌと結婚した男はその金でぜいたくに
暮らし、本人は鉄格子の部屋に閉じ込められて、絵を描かされたそうです。

「慰霊碑」 1925年 
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緑色が強く、タッチに荒々しさがあって、ヴラマンクに似たところがあります。
女性が喪服を着ているのは、1918年に終わった第一次世界大戦の慰霊碑でしょうか。
ユトリロの描く女性は腰が大きく張っているのが特徴です。

ユトリロはシュザンヌの奨めで、1935年にリュシー・ヴァロールと結婚しますが、
今度は夫人に病人扱いされて家の中に閉じ込められます。
「助けてくれ」と書いた紙で石を包んで塀の外に投げても、近所の人は
今や有名人となったユトリロの字だというので、大事にしまっておいたそうです。

「サン=ピエール教会とサクレ=クール寺院、モンマルトル」 1935年 個人蔵
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同じ場所を描いても、1910年代に比べ、かなり色彩が明るくなっています。

「モンマルトルのキュスティーヌ通り」 1938年 松岡美術館
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キュスティーヌ通りはモンマルトルのサクレ=クール寺院の北東側にあります。
パリの大改造によって出現した整然とした街並みです。
定規をよく使っていたユトリロには直線的な街路は描きやすかったかも知れません。

「モンマルトルの迷路」 1942年 松岡美術館
西005

右上にモンマルトル名物の風車、左上にサクレ=クール寺院が見えます。
ユトリロの描く人物は女性一人、男女二人、女性二人の五人の組み合わせが
多いです。
この作品では女性が二人加わっていますが、点景として雰囲気を出すための
小道具として使われています。

「サクレ=クール寺院、モンマルトル」 1945年頃
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「雪のサン=ピエール教会とサクレ=クール寺院、テルトル広場、モンマルトル」 
 1950年頃 個人蔵、イタリア

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晩年の作品です。
テルトル広場を抜けて、サン=ピエール教会に出るところです。
現在のテルトル広場は街頭絵描きの集まる、にぎやかな観光地になっています。
ユトリロがモンマルトルに居た期間は短かったのですが、過去の自分の絵や
絵葉書を元にして、何度もモンマルトルを描いています。

孤独な少年時代、ユトリロは漆喰のかけらをおもちゃにして遊んでいて、
後に、パリの思い出として何を持って行くかと訊かれて、即座に「漆喰」と
答えたとのことです。
作品でも漆喰壁の質感を出すため、絵具に石灰、鳩の糞、卵の殻、砂などを
混ぜていたそうで、漆喰への思い入れは深かったようです。
東京の喫茶店やカフェでもフレンチ系のお店は、よく内装を漆喰壁にしています。

パリの街並みはよく残っていて、ストリートビューで探すと、どの絵の景色も今も
ほとんど同じです。
キャバレー・ラパン・アジルもそのまま残っていて、シャンソン酒場として営業しています。

東京は坂の多い街なので、ユトリロが絵にしたモンマルトルの坂のような景色を
見ることがあります。
新宿区舟町のセツ・モードセミナーは1954年にイラストレーターの長沢節(1917-1999)が
開設し、2017年に閉校した美術学校ですが、その佇まいはユトリロの「ラパン・アジル」を
思わせます。

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ユトリロの作品を観た後では、現実の風景がユトリロの絵に似せているように
見えることがあり、東京でも古い建物が残っている所があると、ユトリロを
思い出したりもします。
それほど、ユトリロの描く街の風景は観る人に深い印象を残します。

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【2020/04/26 19:28】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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