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私の「枕の草子展」
枕草子
chariot

清少納言の「枕草子」を思い出して、関係する作品を集めてみました。

「枕草子」は平安時代の中期、一条天皇の中宮定子に仕えた清少納言の書いたと
される随筆です。
章段の数字は三巻本と呼ばれる写本に拠っています。

1 春はあけぼの

有名な第1段の書き出しです。
春夏秋冬それぞれ、どの時間に魅力があるか述べています。

「あけぼの・春の宵のうち あけぼの」 速水御舟 1934年 山種美術館
速10-9-2009_005

淡青色または白群青色の朝鮮色紙に描かれているそうです。
小品で、薄紅の空を背景に、真横に伸びた柳の枝が上に立ち上がり、
更に滝のように垂れ下がっています。
烏が枝に止まって、その空を見上げています。
春も浅いのでしょう、柳はまだ葉を付けていません。

夏は夜

「ほたる」 松村公嗣 2010年
院4-4-2010_002

左は草の上、右は水の上の蛍です。
羽根を開いたり閉じたりした蛍が一匹一匹ていねいに描き込まれています。

秋は夕暮れ

田渕俊夫 「明日香心象 橘寺夕陽」
院展img091 (6)

聖徳太子建立と伝わる奈良の橘寺を飛鳥川の河原から見た景色です。
創建当初から東門が正面で、田の刈入れも終わった秋の夕暮れ、
夕陽が東門の向こうに沈んでいきます。

冬はつとめて

「雪松図屏風」 円山応挙 江戸時代 18世紀 三井記念美術館 国宝
応挙009

右隻
応挙008

左隻
応挙007

雪の晴れ間の澄み切った空気の中に立つ松の木です。
三井記念美術館では毎年、お正月頃に展示されます。


9 上にさぶらふ御猫は

一条天皇の可愛がっていた猫を翁丸という犬が脅かしたものだから、
帝の罰を受けてしまうというお話です。

「班猫」 竹内栖鳳 1924年 山種美術館 重要文化財
大2-14-2010_004

竹内栖鳳の代表作で、沼津の八百屋さんの飼い猫が、宋の徽宗(きそう)皇帝の
描いた猫と同じ柄なので、貰い受けて京都に連れて帰り、描いた作品です。

「犬」 後漢~三国時代(蜀)・2~3世紀
1957年、四川省成都市天迴山3号墓出土 四川博物院

さIMG_0491

墓の前に置かれていた像で、忠実な番犬といった顔をして、狛犬のようです。
翁丸もこんな感じの犬だったのでしょう。


25 すさまじきもの

験者(げんざ)の、物の怪調ずとて

がっかり興醒めするものを集めた中に、祈祷師がさかんに経を唱えても効き目が表れず、
祈祷師はとうとう止めて、何かに寄りかかって寝てしまった、というのがあります。

 「御産の祷(おさんのいのり)」 安田靫彦 1914年 東京国立博物館
安田015

こちらは紫式部日記に記された、藤原彰子の敦成親王(後一条天皇)の出産場面です。
奥の不動明王像の前で僧が護摩を焚いて祈祷し、女房が憑坐(よりまし)となって
悪霊を引き出そうとしています。

いみじうねぶたしと思ふに

とても眠いのに、大して親しくも無い人が揺り起こして無理に話しかけてくるのは
とても興醒めなことだ、とあります。

「病草紙断簡 不眠の女」 平安時代・12世紀 サントリー美術館 重要文化財
絵巻1

板張りの床の上に敷物を敷いて、侍女たちでしょうか、女たちが眠っています。
他の人たちが寝入っている中で、一人だけ眠れずに起き上がっています。
本人にとっては辛いでしょうが、この時代にも不眠症があったのかと思うと、
観ていて面白くなります。


除目に司(つかさ)得ぬ人の家

今年の各国の国司を任命する儀式である除目(じもく)のある日に、結果を待って、
任命されそうな人の家に集まっていたのに、期待外れに終わり、皆ががっかりする
様子が詳しく書かれています。
国司に任命され、受領(ずりょう)として任地に赴けば、そこでは自分が最高位なので、
富と権勢を誇ることが出来ました。
清少納言は国司になる中流階級の貴族の出身なので、日頃から見慣れた
光景だったようです。
このあたりの描写を読むと、たしかに文才のある人だなと思います。

「北野天神縁起絵巻 巻第6(部分)」 室町時代 15世紀 重要美術品
刀007

北野天神の効験を説いた巻で、継母にいじめられていた姉妹が北野天神に詣でたところ、
播磨守有忠という国司と出会い、姉はその妻となり、妹は宮仕えが叶ったというお話です。
国司の館での豊かな暮らしの場面です。

黄金の中山に鶴と亀とは物語 仙人童の密かに立ち聞けば 殿は受領に成り給ふ
梁塵秘抄より


99 五月の御精進のほど

五月の頃、ほととぎすの声を聴こうと思い立った清少納言ら女房たちは
高階明順の屋敷に出掛けます。
帰りには咲いていた卯花の枝を折って牛車を垣根のように飾り立てます。
誰も見てくれる人がいないのは面白くないので、藤原公信の家に使いを出し、
公信が慌ててやって来るのを見て面白がります。

上「杜鵑を聴く」 村松園 1948年 山種美術館
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ふと片手を上げ、聞こえてくるほととぎすの声に耳を傾けているところです。
青海波模様の着物姿で、手にした傘が雨上がりの気配を表しています。

「官女観菊図」 17世紀前半 岩佐又兵衛 山種美術館 重要文化財
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乗った牛車の簾を上げ、道端に咲く菊を官女が眺めているところです。
清少納言たちもこのように卯花を眺め、折って車に飾ったのでしょう。

「志野茶碗 銘 卯花墻(うのはながき)」 桃山時代 16-17世紀 国宝
室町三井002

白い釉を垣根に咲く卯の花に見立てています。
名は箱書きの片桐石州の書いた古歌に拠っています。

 山里の卯の花墻のなかつ道 雪踏み分けし心地こそすれ


108 方弘はいみじう人に笑はるるものかな

源方弘(みなもとのまさひろ)という役人がいつも可笑しいことをしたり言ったり
するのを面白がっている章です。
燭台に敷いてある油気のある布を踏んだところ、足袋に布が吸い付いたのに
そのまま歩き出したものだから、燭台が倒れて大きな音を立てたこともあります。
「大地震動」したと、清少納言は漢文調で大げさに書いています。

「織部南蛮人燭台」 桃山時代・17世紀 サントリー美術館
南018

高さ約30cmで、緑釉が上着と籠に軽く掛かり、茶人好みの剽げた味わいがあります。
足の部分に燃えさしを入れる引き出しも付いています。
異国情緒あふれる南蛮文化を偲ばせます。


119 あはれなるもの

しみじみするものとして、吉野の金峯山に参詣する若い貴人のことを書いています。
その後に、藤原宣孝と息子の隆光がその場にふさわしく無いような派手な身なりをして
参詣したと、けなしています。
藤原宣孝は紫式部の夫なので、こんなこともあってか紫式部は紫式部日記で
清少納言を激しく罵っています。

「金銅 藤原道長経筒」 平安時代・寛弘4年(1007) 金峰神社 国宝
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藤原道長が金峯山に埋納した経筒です。
平安後期から近世にかけて、経巻を埋納して経塚を造営することが各地で行われています。
この経筒は高さ40㎝ほどの大きさで、鍍金がなされ、胴に511文字の願文が彫られています。
中に法華経8巻など、道長自身の書写した経巻15巻が納められていました。
金峯山への埋納のことは、道長の御堂関白記にも、寛弘4年8月11日に蔵王堂に参詣して
山上に埋納し、その上に金銅の灯篭を建てたと記述されています。


136 頭の弁の、職に参り給ひて

清少納言たちと話をしていた頭の弁の藤原行成は、所用があると言って夜更けに
帰ってしまい、翌朝手紙を寄越してきます。
「夜を明かして語り合おうと思っていたのに、鶏の声に促されて帰ることになってしまい、
心残りなことです。」と書いてあるので、
まるで孟嘗君の故事のようなことだということになって、清少納言は歌を送ります。

夜をこめてとりのそら音ははかるともよに逢坂の関はゆるさじ

「詩哥写真鏡・清少納言」 葛飾北斎 江戸時代・19世紀
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史記にある、秦王に捕えられそうになり逃げだした孟嘗君が夜中に函谷関に辿り着き、
夜明けまで開かない門を開けるため、物真似の名人の食客が鶏の鳴き真似をした
という故事と、清少納言の歌を題材にしています。
鳴き真似につられて鳴き出した鶏の声を聞いた関所の役人が、朝だと思って
関の門を開けようとしています。


232 月のいとあかきに川を渡れば

月のとても明るい夜に牛車で川を渡ると、牛の歩みに連れて水晶の砕けるように
水が散るのは美しい、とあります。
清少納言の美的感覚をよく表しています。

「片輪車蒔絵螺鈿手箱」 平安時代・12世紀 東京国立博物館 国宝
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牛車の車輪の乾燥による割れを防ぐために川に浸けている風景を表しています。
水の流れと車輪を取り合わせたデザイン感覚は新鮮です。
泥の中に咲く蓮の花もイメージされているそうです。
箱の底にも鳥や蝶、木の葉などが描かれています。


299 雪のいと高く降りたるを,例ならず御格子まゐらせて

雪の多く積もった日に、皆で火鉢を囲んでいると、中宮定子が清少納言に
「香炉峰の雪はどうなっているか」と問い掛け、清少納言が簾(すだれ)を
持ち上げて庭の雪を見せたというお話です。

  少納言よ香炉峰の雪はいかならむと仰せらるれば
  御格子上げさせて御簾を高く上げたれば笑わせたまふ

白楽天の詩の一節、
遺愛寺の鐘は耳をそばだてて聴き、香炉峰の雪は簾を掲げて看る、を演じた訳です。

「雪月花」 上村松園 1937年 宮内庁三の丸尚蔵館
皇10-8-2009_003

上村松園が貞明皇后(大正天皇の皇后)の用命を受けてから完成まで21年
かかった作品です。
「雪」「月」「花」を題材にした三幅対で、「雪」は、枕草子の香炉峰の雪の逸話で、
清少納言が簾を持ち上げているところです。
清少納言といえば先ずこの場面が思い浮かびます。
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「枕草子」という題名の由来

枕草子の跋文には紙を献上された中宮定子にこれに何を書こうかと問われた清少納言が、
「枕にしましょう」と答えたので、その紙を下賜されたとあります。
ただ、その「枕」が何をするのか不明とのことです。

「伽羅」 鏑木清方 1936年 山種美術館
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枕香炉という、髪に香りを薫きしめる枕でうたた寝をした女性が目を
覚ました姿です。
市松模様の帯が粋で、朝顔や花菖蒲の模様や色彩に初夏の雰囲気が表れています。
枕から香りを出す透かしは、香道で用いられる源氏物語にちなんだ印の源氏香を
あしらっています。

清少納言は才気煥発、言葉が弾むようで、おしゃべりするにはとても楽しい人だった
ことでしょう。
ただ、柱の陰から人を観察しているようなタイプの紫式部からすれば、出たがりの
清少納言など大嫌いだったのもうなずけます。

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【2020/05/23 18:55】 美術館・博物館 | トラックバック(0) | コメント(0) |
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