東京藝術大学大学美術館 「絹谷幸二 生命の軌跡」展
上野・根津
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上野の東京藝術大学大学美術館の「退任記念展 絹谷幸二 生命の軌跡」
での作品解説に行ってきました。
展覧会は1月19日まで開かれています。

絹1-16-2010_001


絹谷幸二(1943~)は奈良市出身で、東京藝術大学教授を勤め、
今回、退任記念展を開いています。

作家自身による作品解説が何回か行なわれ、私は16日の解説を
聴きに行ってきました。
大変な盛況で、100人くらいのお客さんが集まっていました。

作品は、広い会場を利用して、大作を中心に50点展示されていました。
絵画をそまま立体にしたような作品もありました。

「自画像(卒業制作)」 1966年 油彩

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暗い背景を前にした、意志の強そうな顔です。
今の華やかな色彩画家の絹谷幸二になると、想像されていたでしょうか。


「諧音の跡」 1967年 油彩

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今とはまったく違う、色数の少ない、地味な色調です。
若い頃は貧乏で、高い絵具を中々使えなかったとのことです。


「アンジェラと蒼い空 II」 1976年 ミクスト・メディア

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1971年から73年まで、イタリアに留学し、作風ががらりと変わります。
色彩が圧倒的に明るく、力強くなります。
絵具も日本画の顔料と油絵具を混ぜて使っているということです。
作品に日本画の雰囲気があるのは、日本的な題材と共に、顔料の使用が
あるからでしょう。


「銀嶺の女神(’98長野冬季五輪ポスター原画)」 1997年 ミクスト・メディア

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解説、
「この顔は誰をモデルにしているのかよく訊かれるが、
モデルは若い時の自分の顔。
レオナルドのモナリザのモデルも、レオナルド自身。
誰を愛しているかといえば、それは自分に他ならない」


蒼穹夢譚」 2000年 ミクスト・メディア

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砂漠に人が倒れ、兵士や潜水艦の映ったテレビが半分埋まっています。
空には三十三間堂の風神雷神が浮かんでいます。


「明王夢譚 II」 2002年 ミクスト・メディア

燃え上がる地上にはニューヨークの街並みやワシントンの議事堂が見えます。
火炎の中に不動明王が座っています。

解説、
「9・11事件に触発されて描いた。
不動明王の顔がフセイン大統領に似てしまった。
砂漠は人間の生存権も脅かされる場所。
そこに生きる人たちは顔付きも異なってくる。
お寺で見る十二神将などの顔が仏様の顔と違うのは、
砂漠の民が傭兵として働いていたのを写したから」


「富嶽龍神飛翔」 2003年 ミクスト・メディア

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解説、
「富士山は、横山大観のような老大家の描くものだといわれるが、
私は富士山が好きなので、よく描いている。
人間の住める所は、せいぜい富士山の頂上程度の高さしかない。
地球の表面の薄皮のような狭い所で、人間は生きている」


「炎炎・東大寺修二会」 2008年 ミクスト・メディア

東大寺二月堂のお水取りの模様です。
大松明の赤い炎が縦横に駆け回り、二月堂全体が燃え上がっているようで、
迫力一杯です。


「ノン・ディメンティカーレ(忘れないで)」 1994年 ミクスト・メディア

他の作品とは雰囲気が異なり、装飾性は無く、色調も暗く、人間の闘争の
世界が描かれ、ピカソの「ゲルニカ」を思わせるものがあります。
人間の悲劇を「忘れないで」ということでしょうか。

解説、
「人間には明るい面ばかりでなく、暗い面もあり、欲望や憎悪なども
抱えた存在。
これから集中して描いていきたいテーマである」


以下、解説と、質問への答えで興味深かったことです。

「(画家としての生い立ち)
始めは貧乏生活で、絵も暗かったが、イタリアに行き、その明るさに
圧倒されて、画風が変わった。
それまでに日本で一応の評価を得ていたが、それを捨てることになった。
身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、ということだった。
今度、また捨てられるかどうかが問題。

(西洋と日本)
日本の画家の多くはフランスに行ったが、自分はイタリアを目指した。
西洋の元はイタリアにある。
一時、フレスコ画を描いたのも西洋を知りたかったから。
日本の社会は人と人がつながったスジコ型、西洋は個人が独立したイクラ型。
日本家屋の襖、障子ではプライバシーは保てず、常に相手を意識する思考になる。
枕元でキリギリスが鳴き、戸障子を開ければ外の景色を眺められる。
この構造だと絵画は要らない。
西洋は壁で自分を閉じ込めてしまうので、個人意識が発達する。
息苦しいから、タペストリーや、遠近法を使った絵画を掛けようとする。

(花の絵の解説で)
花はなぜ、こんなに美しいのかといえば、すぐ枯れてしまうから。
体をキャンバスにして絵を描いている、僅かの時間に咲く芸術家。
人間以外の動物はすべて芸術家。
彼らは絵具も無いから、体に描く。

(立体作品について)
アルタミラの洞窟壁画を観に行ったことがあるが、彼らはでこぼこした
岩の立体を上手く使って描いている。
人は立体への憧れがある。
彫刻は逆に、色に夢を持っている。
ミロのヴィーナスも着色してあった。
立体と平面、水と油、共産主義と自由主義、男と女、すべて双眼で視るべき。
男と女も、各民族も人間として同じ。
彫刻と絵画、日本画と西洋画も交流が必要。
自分も顔料と油絵具を混ぜている。

(絵に言葉が書いてあることについての質問に)
シモーネ・マルティーニの絵にも人物の語る言葉が書かれている。
空也の像も、口から南無阿弥陀仏の像を出している。
絵も言葉も自分から出てくるもの。
自分もマンガ世代なので抵抗感は無い。

(自分のテーマを言語で表すと何かの質問に、しばらく考えて)
色彩、ヒューマニズム、自分の中を探りたい。
描かれた絵は自分の前に置かれた鏡。
テクニックでごまかしても、自分が出てくる。
心を鍛えないといけない。
子供の初心を忘れずにいたい。


とても話好きで、闊達、エネルギッシュな方でした。
これから描きたいテーマに、「ノン・ディメンティカーレ(忘れないで)」
の方向があると聴いて、他の作品とはかなり違うだけに、どういう展開に
なるのか興味が持てました。
今後の成果が楽しみです。

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【2010/01/18 00:15】 美術館・博物館 | トラックバック(1) | コメント(2) |
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  • はろるどさん、こんばんは。
  • 速水御舟が、「登り詰めるのは大変、そこから降りて新しいところに登るのは更に大変」
    というようなことを言っていたのを思い出します。
    本人もその言葉を意識されていることでしょう。
    イクラとスジコの話は、私も面白い例えだと思いました。

    【2010/01/18 21:42】 url[猫アリーナ chariot #/8nqih4Y] [ 編集]
  • こんばんは。トークについての詳細な記事をありがとうございます。盛況だったようですね。こうした作家の言葉を聞き、改めて作品を見るとまた印象も変わってきそうです。

    私としては立体に半ば驚かされたのですが、
    それを「人の憧れ」と仰るのは面白いなと思いました。確かに自分の中にもあるかもしれません。

    >西洋は壁で自分を閉じ込めてしまうので、個人意識が発達する。息苦しいから、タペストリーや、遠近法を使った絵画

    核心を突いているようで興味深いです。しかしスジコとイクラに例えられるとは独特ですね。

    >今度、また捨てられるかどうかが問題

    重い一言だなと思いました。

    【2010/01/18 20:25】 url[はろるど #sZuoGHFE] [ 編集]
    please comment















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    東京藝術大学大学美術館(台東区上野公園12-8) 「退任記念展 絹谷幸二 生命の軌跡」 1/5-1/19 「20年以上に渡り東京藝術大学絵画科油画で教鞭をふるって」(美術館HPより引用)きた画家、絹谷幸二の業績を回顧します。東京藝術大学大学美術館で開催中の「退任記念展...
    【2010/01/18 20:08】

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